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オペラ「カラ兄」の評判(その3)

 世界初演オペラ「カラマーゾフの兄弟」の批評の第3弾。今回は、日本の読売新聞の文化欄に亀山郁夫先生が書かれたものである。

壮大な大衆オペラ誕生 「カラマーゾフの兄弟」(1/3)
亀山郁夫 

 美しい初夏の季節にロシア第二の都市サンクトペテルブルクで催される恒例の音楽祭「白夜祭」。今年の最後を飾ったのは、ドストエフスキー原作のオペラ「カラマーゾフの兄弟」の世界初演だった。幸運にしてマリインスキー劇場で、その舞台を観る機会に恵まれた。

 今回の作品は、同劇場総裁で世界的指揮者のワレリー・ゲルギエフじきじきの委嘱により誕生したとあって前評判も高く、7月23日の初演当日は、通路まで観客が溢れる大盛況となった。

 アレクサンドル・スメルコフ作曲のオペラは全2幕25場、上演時間3時間という大作。ご存じの通り、ドストエフスキーの原作は、カラマーゾフ家に起きた父殺しの犯人探しというミステリー仕立ての粗筋に加え、人間の自由、神の存否などをめぐる哲学的な議論がからみあう複雑な内容をもつ。私自身、オペラ化の試み自体どこまで可能か、少なからず懸念していた。

 だが嬉しいことにその懸念は見事に払拭され、ワシリー・ワルハートフ演出の舞台は、芸術の香り高い正統派オペラというより、むしろ「大衆オペラ」として稀にみる充実した内容を見せてくれた。

(2008年9月2日『読売新聞』朝刊)


 ここで「通路まで観客が溢れる」状況とは、劇場が通路に普段はおかない補助椅子まで並べて収容観客数を増やしたということで、快適性とか安全性といった面ではやや問題があった。でも、それだけ超満員なだけに客席の熱気はものすごいものがあった。

 なにせ世界初演なので、事前に知り得た情報などほとんどないに等しかった。ロシア語による公演(ただし英語字幕あり)で、 ロシア語の分からない私には、ストーリーが追うことができるか不安であった。幸いなことに劇場内で購入したパンフレットには、ロシア語のほかに英語でも台本のあらすじが書かれていた。開演前の時間(ゲルギエフはだいたい開演予定時刻から20分ほど遅れる)を利用して、必死であらすじを頭に入れた。また、公演中は英語字幕をできるだけ見ないで、歌を聴くことに集中した。

 セリフが絶え間なく連続するこのオペラのペースに外国人がついていくには、少なくとも原作を一度は読んだことがあるか、または私のように直前にあらすじを熟読することが必要ではないかと思う。そうした予備知識なしに、このオペラだけを観ただけでポイントがつかめむのはかなり難しいと思った。このオペラは決して理解しやすい簡単なものではない。はたしてこれを大衆オペラというのだろうか。
壮大な大衆オペラ誕生 「カラマーゾフの兄弟」(2/3)

 何よりユーリー・ディミトリンの台本が素晴らしい。原作を驚くほど正確になぞり、カギとなる言葉は一つとして省かれていない。有名な「大審問官」の物語は、複数のシーンに分散され、前編を通して一つの物語として現れる手法がとられた。神と専制政治をめぐる深遠な対話である「大審問官」が伏線になることで、大衆オペラにもかかわらず、一種の「神秘劇」としての壮麗な深みが加わった。

 その反面、原作では「父殺し」の主題にからめて提示される異端派のモチーフには踏み込まず、ロシアが歴史的に抱える悲劇の根源を描ききるには至らなかった。これはおそらく大衆オペラとしての限界かもしれない。

(2008年9月2日『読売新聞』朝刊)

 それにしてもあれだけ長編のドストエフスキーの原作を、よくも3時間のオペラに圧縮し翻案できたものだ。そのことにまずは驚かされた。このオペラが、大衆に迎合して話の分かりやすさだけを求めたとすれば、「大審問官」の物語や「神は存在するか否か」といった問答は真っ先に切り捨てたであろう。モークロエの酒宴やミーチャの裁判といった見せ場により多くの時間を費やすこともできたはずだ。

 しかし、ディミトリンやスメルコフはそうしなかった。彼らが原作を正確になぞり、重要な概念を切り捨てなかったことは認めよう。しかし、そのために全体が濃密すぎて息苦しくなっているようにも感じた。

 私たちは、映画などで原作の部分をばっさりと切り捨てながら、原作の全体を見事に再現している例を知っている。 例えば、スタインベックの小説によるエリア・カザン監督の映画「エデンの東」である。映画は原作の後半部分しか描いていないが、前半のエッセンスを見事に織り込んで、前半でしか語られない部分をさりげなく説明しているのである。

 オペラ「カラマーゾフの兄弟」は、おそらく切り捨て方が少し足りなかったのだろう。歌やセリフの量をもう少し抑えて、オーケストラが演奏する時間を長くすれば、もう少し聴きやすい、間のある音楽になったかもしれない。
壮大な大衆オペラ誕生 「カラマーゾフの兄弟」(3/3)

 スメルコフはポストモダン風に過去の作品を随所に重ね、打楽器を活用したスケール感豊かな音楽を作りあげた。場面に合わせ、音楽のスタイルはカメレオンのように変化する。チャイコフスキーもどきの美しいアリアもあれば、ショスタコービッチもどきの鮮烈な不協和音もあり、さらにはカトリックの典礼音楽を思わせる荘厳な響きを取り込むなど、片時も耳を飽きさせることがなかった。

 一言でいえば壮大なキッチュ−−。統一的スタイルの欠如という点で批判があるかもしれないが、私は芸術性を重視するマリインスキーが珍しく挑んだ、新作大衆オペラの誕生を心から寿ぎたい。

 終演後の興奮冷めやらぬ客席で、私はあるロシア人作家の言葉を反芻していた。<人間は三つの類に分かれる。まず『カラマーゾフの兄弟』を読了した人間、次にこれから読もうという人間、そして第三に未来永劫決して手に取ろうとしない人間……>

 しかし初演の夜、鳴りやまぬ拍手の中に身を置いた多くの「第三」の人々が、このオペラを通して原作の持つ無限の魂の広がりにわずかでも触れることができたのではないかと思っている。
 (ロシア文学者、東京外国語大学長)

(2008年9月2日『読売新聞』朝刊)


 「大衆オペラ」とか「キッチュ」というと、芸術とか正統と対極にあるように感じられ、きわめて真面目につくられたこのオペラを冒涜しているようにも思える。だが、オペラ「カラマーゾフの兄弟」を見終わったときの高揚感や陶酔感は、これまで正統派オペラでは味わったことのないものだった。どこか遠くの離れた世界の出来事ではなく、現実の身近な世界の出来事のようにも感じられた。これは同時代の作曲家による世界初演への期待が裏切られなかったことの喜びだけではないだろう。このオペラによって、何か新しいエネルギーをもらい、満足感と充足感を得たという感触は今も鮮明に覚えている。あの時、会場にぎっしりといた観衆のうちの何人かは、「第三」の人から「第二」の人になり、そのうちまた何人かは今頃「第一」の人になっていると思う。

 大衆オペラ万歳! カラマーゾフ万歳! である。

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オペラ「カラ兄」あらすじ #25

オペラ「カラマーゾフの兄弟」のあらすじの第25弾(最終回)。

モークロエ
 写真は、モークロエでの大騒ぎ(第18場)(写真出典:マリインスキー劇場のホームページ

第25場 放浪者(後奏曲)
 もう一度大審問官と火刑の十字架がぼんやりと現れて、その向こうには放浪者がいる。
 法廷の裁判長の声が聞こえる。「強盗が目的の計画殺人の罪で起訴されたのだな?」
 大審問官は放浪者にいう。「まわりを見てみよ! あれから15世紀が経過した。さあ、現在の民衆を見てみよ。昔と今と、どちらの民衆の方がおまえ自身が定めたところまで高められると思うか」
 男性の声。「有罪。」「有罪。」「有罪。」…。
 大審問官が宣言する。「明日おまえは火刑に処せられる。」
 放浪者はゆっくりと火刑の十字架を通り抜け、舞台の前の方に近づき、聴衆を見つめる。放浪者は大審問官に近づき、血の気のない唇にキスして、ゆっくり見えなくなる。
 子供の合唱の声が聞こえる。「夜は静かだ。夏の夜は……」
要約:ユーリー・ディミトリン
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オペラ「カラ兄」あらすじ #24

オペラ「カラマーゾフの兄弟」のあらすじの第24弾。

法廷
 写真は、ミーチャの裁判のシーン(第24場)(写真出典:visualrian

第24場 起立!開廷
 法廷。ミーチャがベンチに座る。アレクセイ、グルーシェニカ、カテリーナ・イヴァーノヴナも同様。裁判長、陪審員、傍聴人。
 声が聞こえる。「退職中尉ドミートリー・カラマーゾフは殺人、父親殺害で起訴された。」
 アリョーシャは言う。「兄は無実です。彼を信じてください!」
  カテリーナ・イヴァーノヴナも声を合わせる。「彼を信じてください!」
 グルーシェニカは話す。「私が有罪です。すべては私が原因で起こったのです。彼を信じてください。」
 イワンが法廷に現れる。紙幣の束を振りかざして、彼は言う。「ここに金がある。これがすべてだ。私はこの金をスメルジャコフから受け取った。スメルジャコフが殺した。だがスメルジャコフに殺せと言ったのは私だ。」カテリーナ・イヴァーノヴナが叫ぶ。「この人は病気です。熱があるのです!」
 傍聴人と陪審員が答える。「彼は狂っているぞ!」イワンは割り込んで言う。「兄を釈放しろ。そして私を逮捕するのだ!」
 カテリーナ・イヴァーノヴナが再び言う。「私は言わなければなりません。今すぐに!」 彼女はミーチャの手紙を取り出す。「ここに手紙があります。この怪物のような男が父親を殺したのです。この手紙に彼はイワンが立ち去ったら父を殺すと書いています。」
 グルーシェニカが叫ぶ。「ミーチャ、この蛇のような女があなたを破滅させたわ!」
要約:ユーリー・ディミトリン
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オペラ「カラ兄」あらすじ #23

オペラ「カラマーゾフの兄弟」のあらすじの第23弾。

悪魔とイワン
 写真は、悪魔とイワン(第23場)(写真出典:visualrian

第23場 あなたは私で顔だけが違う
 悪魔はイワンの部屋でソファーに座り、マンドリン弾き語りで、スメルジャコフの歌を歌う。
 スメルジャコフは感情を込めて「どんなに苦労しても、都に行って生活を楽しむのだ!」と歌う。
 イワンが部屋に入る。「ここにいたのか?」
 悪魔は感じやすい歌を歌い続けている。「逆らえない力によって素晴らしいことがあるように私は運命づけられている。おまえは明日法廷に行くのか? 兄さんを守るためにか? それはいいことだ。」
 イワンが答える。「おまえは、顔が違うだけで、おまえが私であると私が確信することを望んでいるのか?」
 悪魔は言う。「私にはおまえを誘惑する方法が分からないのかな?」
 悪魔は、マンドリンをかたわらに置き、ケースからトランペットを取る。会話を続けているのに、トランペットで巨匠の一節を吹いて中断する。ドアがノックされる。
 悪魔は演奏を終えて言う。「ドアを開けろ。おまえの弟アリョーシャが来た。とても変わった知らせを持ってね。」
 アリョーシャは入る。「1時間前、スメルジャコフは首を吊って自殺した。」悪魔は無関心そうにマンドリンを弾きながら歌う。「…都に行って生活を楽しむのだ!」
要約:ユーリー・ディミトリン
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オペラ「カラ兄」あらすじ #22

オペラ「カラマーゾフの兄弟」のあらすじの第22弾。

イワンとスメルジャコフ
 写真は、イワンとスメルジャコフ(第22場)(写真出典:visualrian

第22場 殺したのはあなたです
 イワンはスメルジャコフの部屋を訪ねる。
 スメルジャコフは聞く。「なぜそんなに心配なさるのですか? 明日の裁判が気になるのですか? 私はあなたの不利になるような証言はしませんよ。殺したのはあなたではありません。」
 イワンは答える。「殺したのが私ではないことくらい、知っているさ」
 「ご存じですよね? そう、本当はあなたが殺したのです。あなたは殺人が起こることを知っていた。知っていたということは、私に殺人を命じたということです。あなたが殺人の主犯です。」
 腕の下にマンドリンを抱え、手にケースを持って、悪魔が現れる。悪魔は、会話好きな二人がまるで目に入らないかのように、脇をすばやく通る。イワンは承知して悪魔に従う。
 スメルジャコフはイワンの前で紙幣の束を置く。「全部で3,000ルーブルあります。持っていって下さい。」
要約:ユーリー・ディミトリン
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オペラ「カラ兄」あらすじ #21

オペラ「カラマーゾフの兄弟」のあらすじの第21弾。

エレーナ・ネベラ
 写真は、カテリーナ・イヴァノヴナ役のエレーナ・ネベラ(ソプラノ)(写真出典:マリインスキー劇場のホームページ

第21場 アリョーシャの夢
 空間にはたくさんの光の斑点がある。アリョーシャは揺らめく光線の中央に立つ。
 アリョーシャは言う。「夕暮れ、きらめく星で満ちた天国のような天空……」
 どこか遠いところで、亡くなったゾシマ長老の幻想が現れ、ゆっくりとアリョーシャに向かってくる。
 老人は言う。「どこなのじゃ、アリョーシャ。どこにおるのじゃ?」
 ミーチャ、イワン、在りし日のフョードル・パーヴロヴィチ、そしてスメルジャコフの神秘的で不明瞭な影が見える。4人の影はゆっくりとアリョーシャに近づく。「どこなの、どこにいるの? アリョーシャ。」
 地獄に落ちた霊魂が消えるときの反響音のような沈黙の音がする。
 グルーシェニカ、カテリーナ・イヴァーノヴナ、ホフラコーワの影が現れる。「どこなの、どこにいるの? アリョーシャ。」
 やがて、悩めるアリョーシャの頭に次々と考えが浮かぶ。「真実は、人はみな有罪である。」
 アリョーシャの周りにいた人の影はゆっくりと彼から離れ始める。「どこなの、どこにいるの? アリョーシャ。」
 徐々に人の影は消えていく。
要約:ユーリー・ディミトリン
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オペラ「カラ兄」あらすじ #20

オペラ「カラマーゾフの兄弟」のあらすじの第20弾。

パンフレット
 写真は、オペラ「カラマーゾフの兄弟」のパンフレット。ロシア語と英語の2カ国語表示。別冊でロシア語の台本がついている。

第20場 殺したのはあなたではない
 嵐の暗闇にアリョーシャとイワンがいる。
 イワンは言う。「ミーチャが殺したことの証拠となる、ミーチャが書いた文書をカテリーナ・イヴァーノヴナが持っている。」「彼は犯人ではないので、そんなことありえません!」「それじゃ、誰なんだ?」
 アリョーシャは言う。「ひとつだけ言えるのは、あなたがお父さんを殺したのではない、あなたは人殺しではない、ということです。」
 ちょっと間を置いてから、イワンは言う。「今日からお前とは関わりなくしよう。」
 別れ際に続けて言う。「今日から俺に近づくんじゃないぞ!」
要約:ユーリー・ディミトリン
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オペラ「カラ兄」あらすじ #19

オペラ「カラマーゾフの兄弟」のあらすじの第19弾。

カテリーナ・イヴァーノヴナ
 写真は、カテリーナ・イヴァーノヴナ(第19場)(写真出典:visualrian

第19場 私が必要とするものは地上にはない(カテリーナ・イヴァーノヴナのアリア)
 カテリーナ・イヴァーノヴナがひとりでいる。
 彼女は昨日ミーチャから受け取った手紙を手にしている。
 「大切なカーチャへ。私はあなたにお金を返します。私は老人の頭を打ち、枕の下から金を取ります。イワンさえ出かけたら…」
 カテリーナ・イヴァーノヴナは手紙をしわくちゃにする。
 「私は法廷で何を話せばいいの? お金があったから、敬意の取り繕うことができたことを、私は覚えているわ。入って。ドアは開いているわ。ミーチャが殺すわけがない。ここの窓は地上高いので、ここからは空や日没しか見えない。不誠実な誓いに対し涙を出さずに泣くの。私が必要とするものは地上にない。地上にないの。」
要約:ユーリー・ディミトリン
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78歳、ロシアの大学を卒業

「朝日新聞」の地方版に次のような記事が載っていた。「ドストエフスキーを原書で読みたい」という一心で、78歳の男性がロシアの大学を卒業されたという。

78歳、ロシアの大学を卒業
「ドストエフスキーを原書で読みたい」
横浜・藤原さん 6年間の学生生活

 ドストエフスキーの作品を原書でたくさん読みたいと、78歳の男性がロシアの名門・サンクトペテルブルク大学を今年6月末に卒業した。横浜市都筑区茅ヶ崎南4丁目の藤原剛さん。入学時に30人以上いた同級生で日本人は自分だけ、卒業できたのは6人だった。(渡辺嘉三)
卒業式を迎えた藤原剛さん=ロシア・サンクトペテルブルク
卒業式を迎えた藤原剛さん=ロシア・サンクトペテルブルク
 ドストエフスキーの作品に興味があった藤原さんは94年、NHKラジオのロシア語講座で「カラマーゾフの兄弟」が取り上げられたのを知り、毎日聴いた。講座が終わりに近づき、番組にお礼の手紙を出すと、講師で当時東京外語大学長だった故原卓也さんが返事をくれた。「質問がございましたら、遠慮なくお便り下さい」。その後7年間に約20回やりとりがあり、ロシアに行く時も「期待していまdす」と励まされた。
 02年、73歳で現地の語学学校に通い、さらに大学の語学文学部の予備学部に移ってロシア語会話やヒアリングなど5科目の入試に備えた。記憶力の衰えを感じたこともあったが、別に頼んだ個人教授のおかげもあり合格した。
 入学後、ストレスでまぶたがはれて目が見えなくなり、1週間入院したりもした。だが、スペインやタイからの若い仲間がノートを貸してくれ、支えてくれた。
 卒業論文は「カラマーゾフの兄弟」の登場人物の氏名分析だ。氏名の意味を知ることで、性格づけが分かるという。28の氏と名を取り上げ、A4判65ページの労作だ。
 終戦間近い44年に15歳で海軍に入った。戦後上京し、夜間中学に。55年に早大の第二法学部に入学した時は26歳だった。大学院に行き、卒業後も弁護士を目ざし、司法試験を受け続けた。45歳まで頑張ったが果たせず、その後小中学校の塾を72歳まで続けた。
 ロシアでの6年間、妻との週2回の電話に勇気づけられた。学費も含め年間200万円かかった。「若いときから酒も飲まず勉強一筋だから年金や少しの蓄えもありました。でも、若い人に本当に助けられた。研究を続けたい」と意気盛んだ。
『朝日新聞』第二神奈川面(2008年9月5日)より)


 60歳をすぎてからロシア語の勉強をはじめ、ロシアの総合大学=サンクトペテルブルク大学を卒業されたとは、本当に素晴らしいことだと思う。藤原さんに心からご卒業おめでとうと申し上げたい。私も、しっかりとした目標をたて、残りの人生を全うするような、なすべきことを決めなければと思った。
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オペラ「カラ兄」あらすじ #18

オペラ「カラマーゾフの兄弟」のあらすじの第18弾。

逮捕
 写真は、モークロエに警察がやってきてミーチャを逮捕するシーン(第18場)(写真出典:visualrian

第18場 私をどこか遠くに連れてって
 旅館の広間。
 貴族のムシャロヴィッチとヴルブレフスキーは、テーブル席にすわりトランプをしている。半分酒が入ったグラスをもって椅子に座っているグルーシェニカは、突然入ってきたミーチャを見る。「ミーチャ! ここに掛けて。あなたに会えてうれしいわ!」 シャンパンが運ばれてきた。
 ミーチャは、地主にひと勝負しないかともちかける。最後の数百ルーブルを持って、ミーチャはポーランド人貴族を隣の席に座らせる。「3,000ルーブル欲しくないか。金をやるから、ここから出て行け」とムシャロヴィッチに言う。「500ルーブルは今渡す、残りは明日だ。」ミーチャが3,000ルーブル持っていないと分かって、彼らは誇らしげにミーチャの提案を拒絶する。ムシャロヴィッチはその話をグルーシェニカに話す。
 グルーシェニカはミーチャに言う。「あなたが彼にお金をあげるというのは本当なの?」
 ムシャロヴィッチは言う。「私はあなたを妻として迎えるためにやってきた。でも今のあなたはかつてのあなたとはまったく別の女性となってしまった。」「ああ、出て行ってよ。元いたところに帰ってよ!」ミーチャはポーランド人に飛びかかる。おおぜいのいる部屋で楽師たちや歌い、踊る若い女性によって、ミーチャの行く手はふさがれる。
 グルーシェニカは言う。「ミーチャ、私、ここにいる誰かを愛しているわ。誰だかわかる?」 旅館の歌とばか騒ぎはおさまっていく。グルーシェニカは続けて言う。「ミーチャ、私を連れてって!」
 グルーシェニカとミーチャの目には、まわりの何もかもが消えた。「私にさわらないで。私たち、純血で正しい人間よね。どこか遠くに連れてって。ねぇ、聞こえている?」
 ミーチャが答える。「どこか遠くに……」
 グルーシェニカが続けて言う。「それらは動物でなく、種…」ミーチャは答える。「私はこの1時間のために全人生を捨ててもいい」
 二人は歌う。「雪がきらきら輝く。教会の鐘が鳴る。教会の鐘が。どこか遠くに……」そのうち、教会の鐘が鳴り始める。
 郡の検事とお付の警官が入ってきて、ミーチャのところに来る。
 「退職陸軍中尉カラマーゾフ、お前を父親に対する強盗殺人の容疑で逮捕する。」
 ミーチャは答える。「無罪だ! 私じゃない! 私じゃない! 私には有罪の血は一滴も流れていないんだ!」
 検事は続けていう。「使用人のグリゴーリーは生きている。彼は意識を回復した。彼が証拠を提供するだろう。」
要約:ユーリー・ディミトリン
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まいじょ * オペラ * 06:47 * comments(0) * trackbacks(0)
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