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椎名誠「ロシアにおけるニタリノフの便座について」

 ネットやガイドブックでロシア旅行にあたって注意すべきことを調べると、ロシアの治安の悪さとか、ホスピタリティや道徳心の欠如について、信じられないような話が語られており、ちょっとひいてしまう。多くの体験記に共通するのは、ロシアのトイレの凄まじさである。
ロシア国旗影付き

 ロシア旅行の一般的な注意事項からチェックしておこう。
1.服装は地味な方が良い。
2.リュックはやめたほうが良い。
3.トイレは汚い。
4.トイレの紙は(紙質が悪いので)流さず、横のくずかごへ。
5.日本ではルーブル(ロシアの通貨)に両替できないので、米ドルを持っていく。
6.ルーブルは国外持出禁止。再両替も困難なため、小額紙幣を必要なだけ両替すべし。
7.町で出会う商売人に注意。
8.スリ・ひったくり・などなど、とにかく周囲に注意。
9.スキンヘッドに注意。
10.悪徳警官にも注意。
「ペテロの町に恋をして」

 ロシアのトイレットペーパーがおそろしく硬いことは有名である。
佐藤 例えば、トイレットペーパーって、ぼくがソ連にいたころは、年に二回、ひとり十個しか買えないんですよね。外国人向けの外貨ショップ「ベリョースカ(白樺)」には、高級ウイスキーやモンブランのボールペンは売っているのに、トイレットペーパーは売っていない。ソ連当局があえて外国人に不便な思いをさせようとしていたのだと思います。
 モスクワ在住の外交官は普通、外交特権を使ってフィンランドのヘルシンキのデパート(ストックマン)から通信販売でトイレットペーパーを買います。ぼくはあえてロシア人と同じ生活をしてやろうと思って、買い出しに行ったんです。一時間ちょっと並んで十個買って、ひもでつないで、肩からぶら下げて歩く。あの幸福感といったらない。
亀山 それはほんとにロシア的幸福感ですね。
亀山郁夫+佐藤優「ロシア 闇と魂の国家」

トイレにしゃがむ時の向きにも注意しなければならない。駅にある有料の公共トイレを利用したshiroperuさんの体験である。
中は結構広くて、お掃除おばさんが掃除している。個室は、ドアを開けると1段高くなっている形式だった。ところが便器が…あれ、便器がない?腰掛式の洋式便器がないので、ちょうど日本の和式トイレのような感じである。
ドアはある。しかしドアといっても、上下が切られている仕切りのようなものである。中が1段高くなっているので、そこで立っていると、外の床を掃除しているお掃除おばさんが見える。
ここで、お腹が痛くて考える余裕のなかったshiroperuは、つい、日本と同じ向きで壁の方を向いてしまったのだ…。
見かけが和式トイレとそっくりだったし…。このことが間違いだと気付いたときは、既に遅かった…、、、
向きは、ドアの方を向かなければならない。そうでないと、後で困ったことになってしまう。
(どう困ってしまうかと言うと…要は“流れない”んですね…、、、さすがにあまり詳しく書けません…(^_^;))
何回も水を流してトライするのだが、…○△×◎×、、、ど、どうしよう〜、、、(+_+)
しかも外のフロアーには、お掃除おばさんが“巡回”している…。外に出たら、なんだかすぐさま中を検分されそうな雰囲気である。
体調が悪いのと、この状況とで、ほんと〜に冷や汗が出てきた…、、、(ーー;)
これで、ドアの向こうで次の人が並んだりしたら、絶対絶命である〜、、、(@_@) 
今ならまだ間に合う〜、、、逃げるなら今だ〜、、、
おばさんが横を向いている間に、何食わぬ顔をしながら、しかし心は脱兎のごとく、足早に出てきてしまった…。
(心の中では、「ゴメンナサ〜イ」m(__)mと謝っておいた…)
手を洗うところは別のスペースになっていたので、そこでも足早…ではなく、手早く済ませて逃げるようにトイレを後にしたのだった。
ロシアで便器のないトイレに入った場合は、くれぐれも“向き”にご注意を…。
「ロシア旅行記」

 ロシアのトイレ事情に関する極めつけの文章は、椎名誠の「ロシアにおけるニタリノフの便座について」である。

 「シベリア大紀行」というドキュメンタリー番組で、極寒のロシアを横断する旅をした椎名誠の一行11名は、退屈しのぎにメンバーのそれぞれに即席のロシア名をつけあった。例えば、椎名自身はラーメン好きなことから最初はシナメンスキーとなり、やがてあきれるほど居眠りを続けていたことから、フルネームでアキレサンドル・シナメンスキー・ネルネンコというロシア名になった。いつも集合時間に遅刻するスタッフはオクレンコという具合である。

 TBSのクルーに新田さんという、いつもニコニコしている人がいた。この人は初めはニコリノフだったが、やがて苗字のニッタとかけあわされてニタリノフとなった。彼は技術者であるから、ロシアの壊れた電気器具やら水道の栓やらを次々と直し、「ニタリノフの行くところロシアはどんどんきれいになっていった」という。

 さてロシアのホテルのトイレには便座がなかった。どうしてことごとく便座がないのか。「ロシアにはなぜか便座だけを狙う大盗賊団でもいるのではないか」「ホテルの経営者が何故か訳もなく大の便座嫌い」……諸説紛々である。退屈な冬のシベリア、ウォッカを飲みながらそんな馬鹿馬鹿しいことでも議論するしかあるまい。
 ある日、ニタリノフが自分の部屋の便所に便座をつくったらしい、という情報が流れた。
 退屈していた我々は恥ずかしがるニタリノフを押しのけて、彼の便座を見に出かけた。 ニタリノフの便座は青い発砲スチロールでできていた。発砲スチロールは5センチほどの厚みがあったのでそれは実に堂々と存在感に満ちてロシア便器の上に乗っていた。「うーんさすがにやりますねえ」
 とオクレンコが心から感心した声で言った。ニタリノフは何故か妙にふかくふかく恥じ入った様子で「いやほんのヒマつぶしですからねハハハ」とあまり感情のこもらない声で笑った。
椎名誠「ロシアにおけるニタリノフの便座について」

 ロシアのトイレ、本当におそるべしである。
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まいじょ * * 11:03 * comments(1) * trackbacks(0)

ロシアへの旅

 昨秋、亀山郁夫訳「カラマーゾフの兄弟」を読んで以来の私の中のロシアブームが高じて、ついにロシアを訪れることになった。旅のハイライトは、マリインスキー劇場(写真)でオペラ「カラマーゾフの兄弟」(指揮:ワレリー・ゲルギエフ、作曲アレクサンドル・スメルコフ)の世界初演を見ることである。この旅がどのようにして決まったのかのプロセスを記録しておく。
マリインスキー劇場
2007.10.10 「カラマーゾフの兄弟」を読了
2007.10.29 《Cafe MAYAKOVSKY》(亀山郁夫先生のブログで、現在の《Cafe Karamazov》。)を発見。初書込み
2008.01.05 朝日カルチャーセンターで亀山先生の公開講座「ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』続編を「再考」する」を受講

 この間、「ドストエフスキー 謎とちから」「『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する」「ドストエフスキー父殺しの文学(上・下)」と亀山先生の著書を読みあさり、ドストエフスキーの長編「罪と罰」「白痴」「悪霊」を読破。さらには、ラジンスキーの「アレクサンドルII世の暗殺」を読んだり、NHKハイビジョン特集「女帝エカテリーナ2世 〜近代ロシアを築いた女性の生涯〜」やTBS世界遺産「サンクト・ペテルブルグ歴史地区と関連建造物群」といったテレビ番組を観ているうちに、私の中のロシア熱、サンクトペテルブルグへの想いはますます高まっていった。もちろん、同時に奥さんを感化していくことも怠りなかった。
2008.2頃  まいじょ家での会話
      私「次に海外旅行に行くとすれば、どこがいいと思う?」
      家内「サンクトペテルブルグ!」
      私「よし、決まりだね!!」
2008.02.03 《Cafe MAYAKOVSKY》で「今年6月(その後7月に変更)に、オペラ『カラマーゾフの兄弟』が初演される」ことを知る。
2008.05.09 マリインスキー劇場のHPで『カラマーゾフの兄弟』の公演日が7/22-23の両日であることを知る。

 ロシアの旅は、ホテルのバウチャーがないと発行されないビザ制度によって、普通の人はツアーでしか行くことができない。まったくロシア語ができないので、フリープランでなく添乗員付きのツアーがいいだろう。
 7/22か7/23の夜にサンクトペテルブルグに滞在するツアーを検索したが、なかなか簡単ではなかった。手頃な長さのツアーだと、この両日にうまくかからないのである。まず、日本旅行の「バルト3国とサンクトペテルブルグ 10日」というツアーを第一候補としたが、出発2ヶ月前の時点で予約ゼロで、最小催行人員に満たない可能性が高いということであきらめた。第二候補は、クラブツーリズムの「日本航空で行く 華麗なるロシア世界遺産紀行9日間」というツアーであり、これは催行が有望だという。さっそく申し込んだ。
2008.05.17 ツアー申し込み
2008.05.27 マリインスキー劇場のHPで、白夜祭の3日間のチケット(7/20 マリア・グレギーナ・ガラ・コンサート、7/21 ダニエル・ポーラック:ラフマニノフ・ピアノ・コンサート、7/22 オペラ『カラマーゾフの兄弟』)のチケットを予約
2008.06.16 ビザの代行取得を依頼。ツアー代金払込み

 こうしてロシアへの旅の骨格は決まった。出発まで1ヶ月弱。読書も音楽も映画も、しばらくの間、ロシアに集中することにしよう。
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まいじょ * 旅行 * 12:25 * comments(2) * trackbacks(0)

ブルガーコフ「巨匠とマルガリータ」

 20世紀の世界文学を代表するといわれるブルガーコフの「巨匠とマルガリータ」(水野忠夫訳(集英社ギャラリー[世界の文学]15「ロシアIII」所収))を読んだ。時間も空間も超越して、奇想天外な事件が次々に展開するストーリーが面白くて、ほとんど一気に読んでしまった。

巨匠とマルガリータ

 私が「巨匠とマルガリータ」を読んだきっかけは、今年2月から3月にかけてNHK教育テレビで放送した「知るを楽しむ 悲劇のロシア ドストエフスキーからショスタコービッチまで」で、亀山郁夫先生が「独裁者への崇拝と憎悪」と題して、ブルガーコフを取り上げていたからである。

 革命後まもないソビエト、まだ百花斉放の自由があった頃に、ブルガーコフはソビエト社会に対する辛辣な風刺を込めた小説や戯曲を発表し、それなりに成功を収めていた。だが、スターリンが次第に権力を掌握するとともに、ブルガーコフは反動的であると批判にさらされ、発表する機会を失ってしまった。そんな中で、ブルガーコフは政府宛に手紙を書き、国外への亡命を願い出た。

 NHKの番組では、スターリンがブルガーコフにかけた電話に大きく焦点をあてた。
「スターリンです。ごきげんよう。同志ブルガーコフ」
「はじめまして、ヨシフ・ヴィサリオーノヴィチ」
「お手紙受け取りました。同志たちと一緒に読ませていただきました。その件については色よい返事が得られるでしょう……。お望みでしたら、ほんとうにあなたを外国に出してあげましょうか? あなたは私たちにそんなに嫌気がさされたのですか?」


 ブルガーコフの演劇を何回も繰り返し観ていたスターリンは、彼の愛好者であり擁護者であったという。スターリンは、モスクワ芸術座へのブルガーコフの復帰を約束し、ブルガーコフは亡命の意思を取り下げた。

 だが、その後もスターリンの権力はますます肥大化し、大粛清の歯車が動き出した。ブルガーコフも批判を浴び、作品発表の機会はほとんどなくなるが、亀山先生によれば、それもスターリンによる一種の“庇護”の側面があったという。自分の才能を認め、目をかけている芸術家に対しては、危険な兆候が現れた段階で、早めに“警告”を与え、“庇護”したのである。

 こうして命拾いしたブルガーコフであったが、晩年の約10年間の歳月をかけて書いた長編小説「巨匠とマルガリータ」は、生前はもちろん、その死(1940年)後も長い間、陽の目を見ることはなかった。検閲により一部削除されたテキストが出版されたのは、なんと死後26年もたった1966年、発禁だった著作が刊行されるのはゴルバチョフ政権になってからのことだという。

 「巨匠とマルガリータ」は、巨匠と呼ばれる作家とその愛人マルガリータの恋愛物語がメインの軸であるが、黒魔術の教授を名乗る悪魔ヴォラントとその怪しい子分たちによるモスクワを舞台に奇想天外な事件を次々と起こす波瀾万丈の物語がもう一つの軸であり、二つの軸はときどき交差する。そして巨匠の書いた小説中の小説は、2000年近く前、キリストを処刑したユダヤ総督ピラトが主人公であり、悪魔ヴォラントは時空を越えて、ピラトにも関わる。ここで、これ以上詳しく語るのは、未読の方のお楽しみを奪うことになるのでやめておこう。

 ヴォラントのモデルは、スターリンではないだろうか。善か悪かといえば、もちろん悪者なのだが、作者はどこかこの絶大な力を持つ悪魔の善意や庇護を期待しているようなところがある。そしてヴォラントは、どこか神の意思をきき、その願いに応えているところがある。ヴォラントに対する崇拝と憎悪は、ブルガーコフのスターリンに対する「庇護に対する感謝」と「統制に対する嫌悪」というアンビバレントな二つの感情の間で揺れているようにも思う。

 「巨匠とマルガリータ」は、もちろんソビエト社会の厳しい風刺が込められているが、そこに描かれた「自由」や「芸術」や「愛」といったテーマは、時代や国を越えた普遍性をもち、世界文学と呼ぶにふさわしいものといえよう。ロシア文学おそるべしである。

 今朝の朝日新聞(2008年6月15日日曜日朝刊)によれば、ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳)を筆頭に、ロシア文学が時ならぬブームにわいているという。ロシアの好感度はワースト1なのに、日本人は明治時代以来、根っからのロシア文学好きなのだそうだ。「巨匠のマルガリータ」は同じ水野忠夫訳で4月に全面改訳(河出書房新社)されたという。再読するときは、改訳版を入手しよう。
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まいじょ * * 16:21 * comments(8) * trackbacks(0)
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