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2020.03.24 Tuesday
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都 おもしろくて、くり返し読みましたよ。『この世には、犯罪を行うことが出来る人間が存在する。人間は、凡人と天才に分かれ、天才は、あらゆる法律を踏み越える権利がある』そんなくだりがありましたね。
英 少し違います。手当たり次第殺したり、かっぱらったりする権利を持っているというのではありません。ただ人間の生命を犠牲にする以外に、天才が、そのなすべきことをなし得ないとしたら。
都 『彼らはひそかに良心の声に従い、血を踏み越える権利を自分に与える』まさか、このH.S.という筆者が、三条英という女性だとは思いませんでしたよ。
都 この事件は、左官屋じゃありません、この事件には書物上の空想があります。理論に刺激された苛立つ心があります。とにかく殺した、二人も殺した、理論に従って、呼鈴を鳴らされ、引き戸一枚の恐怖にも耐えた。人を殺してなお、身を潔白と考え、人々を軽蔑し青白い天使面をして歩き回っている。あの左官屋には出来ません、英さん、これは左官屋じゃない。
英 じゃあ……誰が……殺したんです?
都 誰が殺した? あなたが殺したんですよ、三条英、あなたが殺したんだ。
英 才谷、あたしがまちがっていたら許してね。
才谷 英。今すぐ外に出て、十字路に立ち、ひざまずいて、あなたのけがした大地に接吻しなさい。それから世界中の人々に対し、四方に向かっておじぎをし、大声で「わたしが殺しました!」と言いなさい。それから、まっすぐ、ひと言も言わず、牢に入りなさい。そして、その牢の扉が開くのを待ちなさい。俺が、俺がその扉を開けてやる。新しい時代と共に。
英 あたしが、待つの。
才谷 英、お前が牢屋の中で俺を待つんじゃない。俺が牢の外でお前を待ち続けるんだ。そして、それから一緒になるんだ。新しい岸辺で、渡り来し彼の岸辺で、大川に抱かれている気がするって。
英 覆された宝石のような朝、なんびとか戸口にて誰かとささやく。それは神の生誕の日。才谷、音が聞こえてきたよ。それは私には雪の音色だ。雪の日の朝は何も聞こえない。なのに外は雪だってわかる。雪の音色は、きれいもきたないも、この世の音のすべてを吸い取ってくれる。(ひざまずく)私がけがした大地よ、どうぞ、この音で、この詩で鎮まってください。(大地に接吻する)三条英、私が、殺しました。