大富豪の御曹司とお抱え運転手の娘という、明らかに身分の異なる男女の恋の物語です。
男女の身分の違いを象徴するような冒頭のシーンです。大邸宅では華やかなパーティーが催されていますが、サブリナは指をくわえてみるしかありません。
サブリナ役の
オードリー・ヘップバーンによるナレーションがドラマの舞台、そして人間関係を簡潔に説明します。
「ニューヨークから50キロの高級住宅地の大きな屋敷に小さな娘が住んでいました・・・」
映画におけるナレーションの効果を、
ビリー・ワイルダーは次のように説明します。
「映像で語ろうとすれば山ほど撮らなければならないものが、ひと握りのナレーションでカバーできる。そういうものがいくつもあった。ひとつの新しいシーンをこしらえるよりも、たとえばサブリナの声をもってきて、観客の興味をかきててるほうがずっといい。金がかからないし、ナレーションのなかでちょっとしたことがいろいろできる。」(『ワイルダーならどうする?』)
ワイルダーは、
キャメロン・クロウとの対話で「麗しのサブリナ」の裏話を次のようにばらします。
まず、
ハンフリー・ボガードが演じた長男役は、本当は
ケーリー・グラントにやらせたかったというのです。グラントに断られて、仕方なくボガードを代役に起用。結果として、監督はボガードの演技に満足したようです。一方、ボガードは代役に不満だったようで、この映画のあと長らくワイルダー監督と疎遠になってしまします。
また、ワイルダーは自分の脚本が遅れたとき、ヘップバーンに頼んで仮病を使ってもらい、撮影が遅れることで取り繕ってもらいました。そのことをいまだに忘れずに感謝していて、彼女が亡くなるまで親密な交友があったといいます。
ヘップバーンにとって『
ローマの休日』に続く2本目の出演作ですが、パリに行く前と後のファッションの違いも際立っています。
→
有名な
サブリナ・パンツをはじめとする、パリ帰りの洗練されたファッションは、
ジヴァンシーのデザインだそうです。(『
写真集 オードリー・ファッション物語』)
この映画で見逃せないのは、長男ボガードの車を運転するサブリナの父が、
「車庫の上で一生を終わる娘でもありません」
といった車中のシーンから、重役会議室で会長席に座っておどけるサブリナに一瞬にして切り替わるところでしょう。
→
この映画でサブリナの心境の変化は理解できます。聡明な女性であれば、プレイボーイの次男
ウィリアム・ホールデンより、しっかりした長男ボガードを選ぶのは当然だと思うからです。
でも、ボガードの変化は理解できません。合理的ビジネスマンが忘れていた人間性を、サブリナの魅力が呼び覚ましたということなんでしょうけどね。『
カサブランカ』であれほどこらえたボガードだけに、どうしても納得いかないのです。
そのあたり、ケーリー・グラントが演じていればどうだったんだろうか、とふと考えたりします。
そういえば、サブリナが長男ボガードが持っていた古いレコードをかけたとき「その歌は止めてくれ」というのは、まさしく『カサブランカ』ですね。
「止めてくれないか」
「なぜ?」
「なぜなら・・・」
「嫌いなの?」
「好きだった」
「私も聞くとつらい歌があるわ。愛してたの?」
「その話はよそう」
「ごめんなさい」
「いいんだ」
「あなたにも女の人がいたのね。いつも一人だと」
「そんな人間はいない」