たらい回し、判で押したような仕事、前例のないことはやろうとしない……、「お役所」の怠慢な仕事ぶりを描きながら、そんな組織であっても個人のやる気によってやればできるのだ、ということを示した作品です。
主人公の
志村喬は、市役所の市民課長。30年間無欠勤で役所勤めをしてきましたが、休まなかったのは、自分がいなくても誰も困らないということを知られたくなかったからという、本当にどうしようもない男です。
不治の病のガンで余命わずかと知り、溺愛していた息子も嫁に奪われ、どうしようもない悲しみや孤独を、慣れない遊びで晴らそうとします。でも、そんなことしても空しいだけでした。
そんな時、役所にうんざりして辞めていく部下の女子職員(
小田切みき)と出会います。穴のあいた靴下をはく彼女に、靴下を買ってあげました。
「でも課長さん、どうしてあたしにこんな?」
「そりゃ、君の靴下に穴が」
「だって、あたしの靴下に穴が開いてたって、課長さんの足が冷たいってわけじゃないでしょ」
「いや、その、わしはただ...」
「うそ、うそ。今のはうそ。よく分かっているの。課長さんの優しい気持ちが。」
こうしてプラトニックな援助交際みたいなものが始まりますが、彼女の若々しい「生き方」に触発されて、彼はついに変身します。
「いや、遅くはない。無理じゃない。あそこでも、やればできる。ただやる気になれば。わしにも何かできる。」
彼は役所に戻り、住民の切実な願いに応えて、ドブ川を暗渠化して公園にするプロジェクトに文字通り命を懸けて取り組むことになります。
公務員やこれから公務員となる人に、ぜひ観てもらいたい映画です。
実はこの3日間のエントリーの隠れテーマは「
三権分立」。「
十二人の怒れる男」は
司法、「
スミス都へ行く」は
立法、そしてこの「
生きる」は
行政なのでした。