Just Build Me An Office Building
フランク・ロイド・ライト [DVD]
エドガー・ターフエル(ライトの弟子)
交響曲第9番はベートーベンの集大成だ。非常に調和の取れた力強い秀作だ。そして彼は最後にコーラスを加えて作品を完成させた。ジョンソン・ワックス社ビルもそれに似ている。
ナレーション
1936年、新しい顧客がライトを訪ねた。革新的な企業の社長であるハーバード・ジョンソンだった。彼は本社ビルの設計者を探していた。数年ぶりの大きな仕事にライトは大喜びだった。「行き場のないエネルギーを解放できる」。アイデアが次々と出てきた。社員にやる気を与える建物にしたいと彼は考えた。ライトたちは夜も休まずに10日で図面を完成させた。プレゼンテーションのため彼とタフエルは顧客を訪ねた。
エドガー・ターフエル(ライトの弟子)
車から降りるとライトは振り返って私に言った。「図面をくれ。建築家は図面を自分で持つんだ」とね。そして中へ入った。話をするライトはまるで伝道者のようだった。彼が1時間半くらい話をすれば、相手には建物の枠組みから自分の居る場所まで見える。誰もが言葉を失い、何の質問も出てこない。
ナレーション
契約成立だった。彼は現社屋から離れた場所に建設したいと主張した。しかしジョンソンは会社のある田舎から離れたがらなかった。「相手の言うとおりにして」とオルギヴァンナが説得した。建設地に関してはライトが折れたが、窓がなくなった。ここで2つの新しい挑戦をした。採光のためにガラスチューブを使う事と、中が空洞になった極細の柱で重い天井を支える事だった。時間も費用も当初の予定を遥かに越えた。「最初は私がボスだった」とジョンソンは言った。「次に同じ立場になり、最後は彼がボスになった」。
ライトとジョンソン
別の問題も浮上した。州の検査官は柱が重さに耐えられないと指摘した。侮辱を受けたライトは公開実験を実施した。掛けた負荷は基準の10倍だった。強度は実証された。
載荷試験
フィリップ・ジョンソン(建築家)
私が1番好きなのはジョンソン・ワックス社ビルだ。彼はそれまでの業界の常識を完全に覆した。何個も部屋が並び窓からは景色が見え、エレベーターがあるのが普通の建物だ。「社屋を建てて欲しい」と言うのは珍しい依頼ではない。だが彼はそれを城にした。心が踊るような建物だ。現在でもアメリカで最高のオフィスだろう。床から伸びる睡蓮の浮葉がまるで天井で開いているようだ。そして優美で上品な茎がその葉につながっている。丸い浮葉はそれぞれが離れている。その間から差し込んで来る光が水の中のように溶け合うんだ。美しい反射だ。この光についてライトは何も言わなかった。彼は柱の構造を誇らしく語った。「誰にも真似できない」とね。睡蓮のような柱を作ってくれと誰にでも頼むことはできる。だが差し込む光を考え、完ぺきな睡蓮を作るのが天才というものだ。
ジョンソン・ワックス本社ビル 内観
ポール・ゴールドベルガー(建築評論家)
「新鮮な空気と日の光が常に溢れている林の中の職場」と彼は呼んだ。だが豪華さと穏やかさを備えた魅力的な建築物だと私は思う。
ジョンソン・ワックス本社ビル 内観
フィリップ・ジョンソン(建築家)
これこそ建築だと思った。空間を創造することは宗教への畏敬に似ている。その空間にいることがすべてなんだ。
ナレーション
感激したジョンソンは自宅の設計もライトに依頼した。
ジョンソン邸
ブレンダン・ギル(作家)
弟子でいることもスリルがあるが、顧客になるのもスリルがある。彼のせいで精神が病みそうになるんだ。予算はオーバーし、図面もない。何もかもが予定とは違う。だがライトがそこに存在するだけで、それは顧客にとって人生最大の経験になる。カウフマンやジョンソンもそうだ。ライトとの出会いは最高の出来事だ。忘れることができない。刺激的な体験だ。自分自身を偉大だと感じ充実感も得られる。ライトにしかできないことだ。
ナレーション
落水荘、ユーソニアン・ハウス、ジョンソン・ワックス社ビル、ライトのキャリアは70歳で復活した。建築業界でも彼は話題の中心だった。数年前、彼を侮辱したニューヨーク近代美術館もライトの個展を開きたいと依頼してきた。見事な返り咲きだった。
タイム誌表紙