10月15日、明治村文化講座「明治塾」:フランク・ロイド・ライト 第2回 藤森照信氏(建築家)を聴いてきた。
以下講演要旨である。
マッキントッシュとライト
ライトは、近代建築の始まりをつげるアール・ヌーヴォーの原型のひとつ「グラスゴー・スタイル」の建築家マッキントッシュよりも年上にあたる。
ヒル・ハウス(マッキントッシュ)
ヒル・ハウス・チェア(マッキントッシュ)
ライトは、若い頃から世界の建築の先端を走り、最晩年までいい建築を作り続けた。変わっていく世界の建築スタイルの中で、一貫して独自のスタイルの建築を追求し、作り続けた稀有な生き方をした。20世紀建築を作った数人の一人である。
ライトと日本
ライトは、日本と縁が深い。日本には何人かライトの弟子がいるが、そのうちタリアセンまで行って学んだのは、遠藤新、土浦亀城、岡見健彦の3名である。
遠藤新の信夫人によると、帝国ホテル敷地内のライトの事務所を訪ねたとき、ライトは窓際に背を向けて立ち、振り向きざま、「Boy!」と言った。ライトのいでたちは真っ黒いマントを羽織り、白いマフラーを首に巻いていた。ライトは弟子たちの前で教祖のように振る舞った。
写真も完全にポーズを決めている。
フランク・ロイド・ライト
タリアセンはブラック企業
ライトの事務所タリアセンには、外国人スタッフばかりでアメリカ人は一人もいなかった。これはコルビュジエも同じで、彼の事務所には世界中から人が来ていたがフランス人は一人もいなかった。
タリアセンは、学校とただ働きさせる建築事務所を併せたようなもので、報酬をもらえないスタッフたちは自給自足で暮らした。タリアセンは修道院のようなもので、ライトはガウンを修道服のように身に付けて、教祖のようだった。
こうしたライトに対して、土浦亀城やレーモンドはのちに反発したが、遠藤新はあくまで従順だった。土浦は、ライトの事務所にいた頃から、ドイツの建築に関心をもち、のちにバウハウスの影響を強く受けるようになる。
- タリアセン・ウエスト 建築家フランク・ロイド・ライトが設計し弟子たちとともに建設した設計工房および共同生活のための建築群
タリアセン・ウエスト
シカゴ万博と日本建築の影響
ライトはなぜ世界的建築家になったのか。
19世紀末のシカゴは、100年前、超高層建築が建てられ、アメリカはヨーロッパを抜いていた。シカゴ万国博覧会 (1893年)は、ダニエル・バーナムの指揮する「ホワイト・シティ運動」により、白一色のギリシア・ローマ風の新古典主義建築によって統一された。その例外が二つあり、一つは宇治平等院を模した日本館「鳳凰殿」、もう一つがライトが属するサリヴァン事務所の「交通館」である。
鳳凰殿
交通館
その後、サリヴァンは新古典主義建築がブームとなっても「あんなものできるか」と仕事を断った。その結果仕事がなくなり、ついには乞食同然となって、ライトに金の無心に来る有様だった。
ライトは鳳凰殿をみて「自分が求めていたものと同じだ」と感じた。しかし、ライトが関心を示したのは日本建築の屋根の形や意匠ではない。彼は日本建築のプランがもつ空間の連続性に惹かれたのだ。
鳳凰殿に関心を持ったライトは「日本建築を学びたい」と来日した。意外にも、ライトが関心を寄せたのは(かのブルーノ・タウトが「キッチュ」とけなした)日光東照宮である。
日光東照宮平面図
ユニティチャーチ平面図
上記二つの平面図は、不思議なほど相似している。ライトは、日本建築からコンティニュイティー(空間の連続性)を学んだのである。
プレーリー・スタイルと空間の連続
ロビー邸は、ライトが確立したプレーリー・スタイルの代表作である。中心に暖炉をおいて、十字架のプランをつくり空間を連続させている。部屋同士を完全に区切ることなく、一つの空間として緩やかにつないだことである。
ロビー邸平面図
施主夫人との浮気(本気)が問題となり、アメリカを追われたライトは、ドイツに行き、ヴァスムート社からドイツ語で作品集を出版する。グロピウスはこの本でライトから学んだように、この本はヨーロッパの近代建築運動に大きな影響を与えることとなった。こうしてアールヌーボー、アーツ・アンド・クラフトからデ・スティル、バウハウスまで、わずか20、30年で世界が回った。
自由学園は、典型的なプレーリースタイル。壁や天井に現れる木の線は、日本建築の真壁構造に現れる柱の影響を受けている。ただし、ライトは決して角(入隅や出隅)には木の線をつけない。
自由学園明日館
山邑邸は、傾斜地に建つためプレーリースタイルをやめている。
山邑邸
ライトは、マヤや日本から影響を受けたことは明らかだが、決してマヤや日本から「学んだ」とは言っていない。
Ennis House Cast Stone Wall Panel
ライトは浮世絵バイヤーとしても有名である。写楽をいち早く評価していたことも明らかなとおり、相当な目利きであり、日本の古美術商は「ライトには偽物を売るな」という合言葉があった。でも、ライトは怪しい浮世絵をつかまされそうになると、相手にピストルを突きつけて真贋を確かめるなど、相当強引なところもあったという。
ライトの完成予想図は浮世絵風に描かれている。
マホニー邸完成予想図
ハーディ邸透視図
帝国ホテル中央玄関の特徴
・天井高が異様に低いこと
・水平に空間が流れていくこと
・装飾が沢山ついていて、しかも上手いこと
・全体として木のような有機的建築となっていること
ライトのベスト5
マリン郡役所
サンフランシスコの宝石店(Xanadu Gallery)
ロビー邸
グッケンハイム美術館
カウフマン邸(落水荘)